« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »

2009年5月

2009年5月26日 (火)

ひたすら暗い『チェイサー』

200905260224.jpg韓国映画は数年に一度こうやって我々の魂を揺さぶってくるなあ。六本木シネマートにて。月曜日はメンズデーで1,000円ポッキリ。しかし館内はガラガラでした。監督・脚本は長編第一作のナ・ホンジン 。韓国で実際に起こった猟奇殺人事件を題材にしたサスペンス。見終わった後はどんよりとした気分にうちひしがれて、ぐったりと疲れてしまった。物語はとてもシンプル。だけどぐいぐい引き込まれて見てしまいました。演出が巧みだからだろうか。ソウルの深夜の住宅地。真っ暗な闇の中を男たちが転びながら走って、飛びかかって、殴る、蹴るの連続。闇の中に荒々しく浮かぶ男たちの表情が印象的で、登場人物は常に何かにいらだち、急かされるような緊迫感があふれていてハラハラしっぱなしでした。

坂の多い町の路地を走って追いかけるシーンや、考えるより先に平手打ちが出るような主人公など、全体的にとても「肉体的」シーンが多くて、ハンマーを振り回す殺人シーンなんかもとても肉体的な痛みに訴えるような演出が多く、じっとしていられないような、そわそわした感じで観ていました。物語の真ん中あたりから一人の少女が主人公と絡みはじめるのですが、そのキャラクターというのがこの映画の中でも唯一の口直しのような存在で、主人公も俗っぽさや怒りなどなどから救われようとするようにも見えたところがおもしろかった。とりわけその分、悲惨な部分が際だつような印象でした。

犯人の犯行の動機などがあまり深く描かれないのですが、物語のメインをその謎の解明に置くよりも、もっとシンプルに男たちの追いかけっこや対決といったアクションにポイントにしているところが良かった。あるひとつの解釈でこの犯罪をまとめてしまうより、観客の想像にゆだねてしまう方がなんだか恐怖はつのるしなあ。そんな犯人の深い心の闇を、夜の路地の暗さがよく表しているように思えました。

| | コメント (0)

2009年5月 7日 (木)

DVD『ヒトラーの贋札』

Chn11_rpt1169_mainDVDにて。ゴールデンウィークは映画業界が決めた名前だったはず。と思いながら借りたDVDのうちの一本。ドイツ・オーストリア共同制作の映画。去年のアカデミー外国語映画賞受賞。第二次大戦中に英米の経済の混乱を狙ったドイツ軍による贋札製作作戦「ベルンハルト作戦」を描いた物語。実話に基づいていることの注記がないのは、ドイツ国内ではこの事件は常識だったからだろうか。主人公はパスポートの偽造で逮捕されたユダヤ人の男サリー。強制収容所に移送されるのだが、送られた先は印刷やグラフィック、製紙などのプロフェッショナルたちが集められた通貨偽造班だった…。

銀行強を描いた映画のように犯罪映画というものは、犯罪のスケールが大きくなるにつれ、どうしても犯罪の成功をわくわくと期待してしまうもので、よりいい贋札が完成する場面など、安堵とカタルシスを感じてしまう。しかしこの映画が他とひと味違うのは、やはり主人公たちのやるせなさだ。偽造を成功させないと彼らは殺されてしまう。成功してもいずれ殺される。また真っ白なシーツで眠る彼らと比べ、塀の外では毎日のように収容者を撃つ銃声が響き渡る。しかもそもそも贋札を作ることでナチスを支援することにもなっている。彼らはあらかじめ大きなジレンマを抱えているのだ。選択の余地がないこのやるせなさ。ある者は、ナチスに荷担することは主義に反するといって仲間に危機にさらしながらも作業を妨害する。またある者は生き別れた家族の死を知り自殺を図る。

贋札の制作過程はスリリングで飽きさせないけど、物語はやはり切なさや悲しさを全編にたたえながら展開する。ナチス将校との心のふれ合いもとてもはかないつながりだし、作戦が一段落ついたつかの間の饗宴も、悲しさの裏返しのようでとても切ない。そんな物語にタンゴのメロディが妙にマッチする。ラストのサリーの行動もそんな記憶を断ち切るようで胸に刺さるものであった。良作。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009年5月 3日 (日)

『スラムドッグ$ミリオネア』

200905030357.jpg六本木にて。ダニー・ボイル監督。出演者は全員インド人。もちろん一人も名前を知らない。おもしろかった。物語、キャラクター、舞台、演出が一体となって、ひとつのうねりのようなものを作り出していた。それはインドという国の勢い、というよりアジアの新興国すべてに当てはまるんだろうけど、その土地全体からあふれ出るエネルギーのようのなものが詰まっている映画でした。子供のころ見たら人生観に影響を与えそうな気がする。

インド版クイズミリオネアに出場したひとりの青年ジャマール。スラム育ちで無学のはずの彼が、最後の一問が終わった後に警察に不正を疑われ取り調べを受ける。その証言を通して、彼が育ってきた半生をフラッシュバックで描いていく。まず少年時代の様子が生き生きとしてすばらしい。ジャマールとともに行動をともにする兄貴分のサリム、そして幼なじみの少女ラティカ。様々な困難が彼らを襲うが、自由に、そしてずる賢く世間の波を泳いでいく。彼らを飼い慣らそうとする大人もまたずる賢さにあふれている。

物語はなぜ彼がこんなにクイズに正解できるのか?という謎を徐々に解明していくことで緊張感を保ちながら進んでいく。さらに映像のテンポや音楽が作り出す独特のグルーブが気持ちよく、全編にわたって熱い空気が充満している。舞台となったボンベイの町やスラムの暑さやホコリっぽさ、そこに暮らす匂い立つような濃いキャラクターを持った人物たちが見せる、嘘と金と欲望のごった煮のような物語が心地よい。少年の成長を描く青春物語であり、ラブストーリーとしても楽しめる。そしてラストも最高!!おとなしく映画を見ている自分がなんだかあまりに平板な人生を生きているようにも思わされ、無性に旅に出たくなるような映画でした。

| | コメント (0)

« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »