地味に染みる『ブラインドネス』
新宿バルト9にて。公開直後なのにえらく空いてるのはプロモーションの少なさのせいか。ある日突然、男の視界が真っ白になって目が見えなくなる。彼のまわりの人間も次々と失明し、その症例は世界中に広まっていく。そんな中、なぜかただ一人だけ目が見え続けるジュリアン・ムーアは、失明した眼科医の夫とともに隔離された施設で生活していく。しかし、閉じられた極限状態の空間において、患者たちの人間性が徐々に壊れ始める…。
もし世界中の人が失明したら社会はどうなる?という大きな仮説を、丁寧に描いていて、エンターテインメントとしてとても面白かったです。さらに世界観に独特の雰囲気があって、登場人物には名前がなく職業だけで区別されていたり、街並みもどこの国か分からないようになっていて、物語の寓意性を際立たせているような印象を受けました。病室ごとのグループを国家として考えてみたり、敵と味方のそもそもの区別って、偶然分けられただけじゃないかとか思ったり。
最初に目が見えなくなる男の伊勢谷友助と、その妻木村佳乃の演技がとてもよかったです。二人ともとても上手な英語を操り、時おり見せる日本語の会話シーンも夫婦のリアリティがある。国際的な役者陣に自然に馴染んでいました。日本語台詞そのママの字幕はなくても良いと思うけど。さらに、ガエル・ガルシア・ベルナルの演技がとても良くて、この人いつもいい役をやらせてもらってるなあという印象。主人公グループと敵対する第三病室の王の、自身が失明の絶望を感じながらも、利己を追求し、狂気に堕ちて行くさま。素晴らしい。
極限状態を描いた映画は、見ている側としては大体一番理性的なキャラクターに感情移入するものだけど、この作品でもっとも理性を発揮していた眼科医夫婦も、状況の変化に巻き込まれながら、正常のボーダーラインを越えてしまう。そこに至るまでの物語の演出がとても上手で、無理なく世界観に引き込まれました。
時折挟み込まれるホワイトアウトした画面や、声だけが聞こえるような演出も効果的で、「見えない」ことの不安と同時に、「見えること」の大切さを感じさせます。廃墟になった街並や、そのなかをうろうろと彷徨う患者たち。まるでゾンビのように描かれ、それと対照的に主人公グループたちは、目が見えることによるメリットを最大に享受出来てるのなんて、この差はなんだろうか。スーパーマーケットが出てくるのもゾンビっぽいなあ。中後半の展開も地味ながらなんか深いものがあってさらに考えさせられました。スケールの大きな一本でした。しかしもっと混んでてもいいのになあ。
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