『めがね』の暮らしがうらやましい
DVDにて鑑賞。ゆるいテンポの映像と波の音が気持ちよくて、うとうとしながら観る。舞台は青い空と美しい海だけが広がる素朴な南の島。島にふらりとやってきた女性が予約した宿・マエダには、料理上手なオーナーや、かき氷をふるまう謎の女性、無愛想な高校教師などが集まって、独特のルールで生活を送っていた…。ちょうど今ぐらいの夏が始まる前の季節に、何にも考えずに観るのがいいと思う。『かもめ食堂』に続き、飯島奈美さんのフードコーディネーションがすばらしい仕事ぶりだった。物語は大きな事件が起きることもなく淡々と進んでいく。このところ濃い味付けの映画ばかり観てきた自分にとっては最初その淡味にとまどったが、徐々に作品のペースをつかむことができた。
この島は、われわれが仕事に忙殺される中で「あー、どっか海にでも行きたーい!」とか叫ぶ時にイメージされるような場所とでも言おうか。誰の心の中にもある理想の場所のように見える。現地の風土や文化のようなモノを極力のぞいた、あくまでも都会に住むわれわれが想像できる範囲内での「楽園」として存在している感じ。劇中には他にも都会人の理想を投影したような場面があり、とりわけ宿のキッチンは田舎の民宿には似合わないほどの設備が整い、感じのいい食器や雑貨が所せましと並んでいる。北欧家具を揃えた『ファイトクラブ』の主人公の部屋のようにすべてに値札を付けていけそうだ。この映画の中では「何にもしばられないスローで自由な時間」と「素敵なモノに囲まれたスタイリッシュな生活」という相反する2つの願望が、さらりと同時にかなえられているようだ。
また、島にあるもう一つの宿を義務や労働の象徴として描くことで、マエダの自由な雰囲気を対称的に見せているのだが、しかしこちらはこちらで、共同での食事やメルシー体操など、暗黙のルールに若干のとまどいを覚えてしまう。このアウェイ感は結局最後まで消えなかった。嫌いな作品ではないけれど、なんだか引っかかる。でもある種の「夢」を描いていると思えば、些末な事象には目をつぶれそうだ。また作品全体に流れている幸せな空気感は全面的に肯定したいと思う。あこがれとうらやみの混じった気持ちにさせられた不思議な作品であった。
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